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部屋でひとりPCに向かっているなう。

Twitterで吐き出しきれないことをこちらに出したりしてます。保育園の待機児童問題など。

『ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件』読了

気になる本 子育て関係ネタ

ルポライター、杉山春さんのルポ 『虐待: 大阪二児置き去り死事件』読了。

2年前に大阪で起きた、3歳の女の子と1歳9ヶ月の男の子を放置し、餓死
させた事件について、母親の芽衣受刑者(仮名)の生育歴と、シングルマザーに
なった経緯が丹念に描かれている。

裁判は最高裁まで進み、懲役30年の刑が確定した。

他人事とは思えない事件だった

この事件が起きたときは、とにかく「幼い子どもを餓死させた」という
事実に衝撃を受けたし、なぜそんなことになってしまったのかと唖然とする
ばかりだった。

だが、本書を読んで「これは自分を含め誰にでも起こり得た事件だ」
という認識に変わった。

単に一人で育児をしていた芽衣受刑者への同情というより、
周囲から手放され、幼い子どもたちを抱えて追い詰められていく
状況が、自分がかつて感じた心理と重なっていったからだ。

芽衣受刑者の「風俗店で働きながら2人の子どもを持つシングルマザー」
という状況に特別さを感じてはいけなかった。
誰でもシングルになる可能性があるということではない。
子育てをしている中で、同じような精神状態に陥ることがあるはず
だからだ。


自宅で言葉もままならない乳幼児と2人きりでいると、時に
すさまじい孤独感に襲われることがある。
これはいわゆる産後鬱か、そうでなくても気持ちを停滞させる何かが
作用するからだと思う。

もちろん私の場合は、実際には実家や保育園の支援を受けていたけれど、
芽衣受刑者にはそれがなかった。
そして、芽衣受刑者が抱える「解離性障害」が状況に拍車をかけていた
こともわかった。


厳しい生育歴を持つ人間がすべて犯罪者になるわけではない。
だからといって犯した罪が許されるということもない。
食事を与えなければ、極端な話、餓死したっておかしくないという
ことは本人もわかっていた。

現実逃避することで自分を守っていた。
現実と非現実の間を綱渡りのように歩くことで、かろうじて精神のバランスを
とっていたのかもしれない。

周囲の人々は、助けの声が出るまで待っていた

著者は子ども達の父親である、芽衣受刑者の元夫とその家族にも
インタビューしており、その回答には正直なところ、首をかしげた。

しかし、お互いの個人の感情が邪魔をして手をさしのべることがなく、
不幸なすれ違いが何度もあったのだろうと思う。

芽衣受刑者が実父や元夫、その家族からの反応を受けて思ったことは
「私たちのことはなかったことにしたいのかと思いました」ということ
だった。

多分に、芽衣受刑者の思い過ごしであるとも言えなくはない。だが、
現実に子ども達に健康的な生活をさせようという動きはこの人たちからは
なかった。
生活能力のない若い女性が2人の子どもを抱えて生活したらどうなるのか
という想像力はなかったのだろうかと感じた。

その根幹には「母親が子どもの世話をするべき」という発想があり、
芽衣受刑者自身にもそれがあったのだ。

本書でも筆者は「悲劇の真因は芽衣さんがよい母親であることに強い
こだわりを持っていたからだ」と述べている。

子どもを餓死させるなんて、あれほどのひどいことをしておいて
“よい母親”と?

誰だって、よい母親であることに強いこだわりを持っているのでは?


そう思うかもしれないが、読んでみれば、その理由はわかって
くるはず。
結果は悲惨だが、実は特別な事件でも何でもない。

誰だって持っているであろう「強いこだわり」が母親を崩壊させたのだ。
母親に子育ての責任を負わせることは、やがて悲劇を招くのだという
思いを強くした。

これからどうしたらいいのだろう

事件からは虐待のほか、離婚後の養育費の支払いが
滞る問題、母親へのサポート、児童相談所の機能不全など、様々な
問題が浮き上がる。

これらの問題を踏まえて、自分に出来ることは何なのか、
行政の力ですぐにでも解決できることはないのか、少しでも改善して
いかなければ、2人の死が無駄になってしまうのではないだろうか。
 
何ができるのか、まだわからないけれど……。


どんな理由があろうと子どもを死なせたことには変わりないし、
事情がわかったところで完全に芽衣受刑者に同情できるかといったら
そういうわけではない。

ただ、人は自分が育てられたようにしか子どもを育てることが
できないことがある、ということも知っておくべきだろう。
虐待は連鎖するけれど、そもそも、子の育て方だって連鎖していく。

その連鎖には良いことも悪いことも含まれている。
悪い部分があるとしたら、それを止めるのは第三者のサポートしかないの
ではないだろうか。

とにかく思ったのは「子育ての責任を母親だけに負わせることの危険さ」だ。

近年は母親ひとりに比重をおかないようにする動きは出てきている。
例えば男性の育児休暇もそのひとつだが、まだ完全とはいえない。
社会的な仕組みだけでなく人々の潜在的な意識改革が必要だと感じる。

子育ての責任、がこの本のテーマのひとつかもしれない。
そういう意味では、あらゆる人が読むべき本だと思う。


ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書)

ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書)